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岡山地方裁判所 昭和44年(ワ)566号 判決

原告

森下益夫

被告

主文

一、被告は原告に対し金三六万円およびこれに対する昭和四四年八月一五日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四、この判決は第一項に限り、原告が金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(1)  被告は原告に対し金七八万六九六五円およびこれに対する昭和四四年八月一五日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決ならびに仮執行免脱宣言。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(1)  本件事故の発生

原告は、昭和四三年一一月一五日午前一一時頃、軽四輪貨物自動車(六岡う一七〇号、以下原告車という。)を運転し、総社市湛井地先国道一八〇号線上(以下本件道路という)を高梁市方面に向けて進行中、同国道を先行していた訴外石原直雄運転の普通貨物乗用車(岡四に七〇八二号、以下訴外車という)を追越そうとして対向車のないことを確認して、右に転把し、右訴外車の右側後方五メートルの地点に接近した瞬間、原告車前方の前記国道右側の山腹の崖部分より突然岩石が落下するのに気付き、原告は右落石を避けるため突嗟に急制動をかけ、かつ左に転把したため、原告車の左前部が訴外車の右後部に追突し、そのため原告車、訴外車がそれぞれ破損し、又原告は頭部に全治二日間を要する傷害を受け、訴外車に乗車していた訴外石原直雄、同加納浩久も後記のような治療を要するむち打傷の傷害を蒙つた。

(2)  被告の責任

本件事故は被告の管理する前記国道一八〇号線の路上に突然落石があつたため、原告がこれを避けようとして不可避的に発生したものである。

ところで前記道路の事故発生場所付近は、被告が前記山腹崖の部分を削りとつて拡張工事をしたものであるが、当時前記崖部分は崩壊の危険があつたのであるから、道路管理者たる被告としては、防護覆を設置するとか、山腹に金網を張るとか、あるいは常に山地斜面部分等を調査して危険な落石があるときは、これを除去する等、道路法第四二条所定の通り、道路を常時良好、安全な状態に保つべく、維持修理し、もつて一般交通に支障をきたさぬように努める義務があるのにこれを怠つたために前記崖部分の崩壊をきたし、前記国道上に落下したものである。

よつて本件事故は本件道路の瑕疵に起因するものであつて、責任は本件道路の管理者たる被告にある。

(3)  損害

本件事故により原告は次の損害を蒙つた。

(イ) 前記原告車の破損修理費 一五万九六五円

(ロ) 本件事故による原告車の価値減耗分 五万円

(ハ) 慰藉料 一〇万円

原告は本件事故により、頭部に全治二日間の負傷を受け、かつ前記訴外人等に対する見舞その他の事後措置につき長期間昼夜を分たず奔走したのであつて、その肉体的、精神的苦痛は大きい。しかも被告は原告に対し何らの誠意もみせず、事後措置についても全く放置したままであり、原告としては更なる痛手を受けたものであつて、右の精神的苦痛を慰藉するには一〇万円が相当である。

(ニ) 弁護士費用 六万円

被告に誠意がないため、原告は本訴を提起するのに弁護士に着手金として支払つた金員。

(ホ) ところで、本件事故により前記訴外車の所有者であつた訴外神戸衡機株式会社およびその同乗者であつた訴外石原直雄、同加納浩久が損害を蒙り、被告が全く誠意を示さず、事後措置等についても放置したままであつたため、原告は形式的には直接の加害者の立場にあつたため次項のとおりその損害金を弁済した。よつてこれも原告の蒙つた損害である。

〈a〉 訴外車の破損修理費 一〇万円

〈b〉 前記石原が本件事故で負傷し、昭和四四年五月末日まで稼働できなかつたため、その休業補償として一九万八七五〇円支払つた。

〈c〉 同加納浩久が本件事故で受傷し昭和四四年五月末日まで稼働できなかつたため、その休業補償として一二万二五〇円支払つた。

〈d〉 本件事故により受傷した前記石原、同加納両名が各々ボリネツク一個を購入した代金 七〇〇〇円

(4)  よつて、原告は国家賠償法二条に基き被告に対し前記原告の蒙つた損害七八万六九六九円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四五年八月一五日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する答弁

(1)  請求原因第一項中、原告主張の日時、場所において本件事故が発生したこと、その時本件道路上に落石のあつたことは認めるが、その余は不知。

(2)(イ)  同第二項中、本件事故が被告の管理にかかる国道一八〇号線上で発生したこと、および右事故発生地点付近道路は昭和三五年から四一年にかけて当時の道路管理者である岡山県知事が拡張したものであることは認めるが、その余は否認する。

(ロ)  事故現場付近の山側は急峻な地形ではあるが、山は安定しており大きな崩壊の危険は予想されない箇所であつた。

しかし、路面上に小石が落ちる慮れがあるので被告は道路管理に万全を期するため「落石注意」の警戒標識を掲示し、通行車両に運転上注意の必要あることを喚起すると共にパトロールを行い、道路の構造の保全と交通の安全を図つていた。従つて偶々予期せぬ落石があつたからといつてそれだけをもつて本件道路が道路として通常有する安全性を欠いていたということはできず、本件道路について、その設置又は管理に瑕疵があつたとはいえない。

(ハ)  しかして本件事故は、道路の設置、管理の瑕疵により生じたものではなく、原告の自動車運転上の過失によるものであつて、落石と本件事故との間には相当因果関係がない。即ち

同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行する自動車の運転者は、一般に、前車が急停止したときにおいても追突するのを避けることができる丈の車間距離を保持する義務があり(道路交通法二六条一項)、更に前車を追い越そうとする場合には、反対方向から来る通行人や車両などについて前方の状況を確かめて事故発生がないよう十分注意した上で、前車の速度、進路および道路の状況に応じてできる限り安全な速度と方法で進行すべき義務を負つている(同法二八条三項)。

ところで本件の場合、「落石注意」の警戒標識により運転に注意するよう特に促されていたのであるから、このような箇所において前車を追い越そうとする自動車の運転者に求められる注意義務は、一般の場合に比してかなり高度のものであるといわなければならない。

原告が右のような点に注意義務を払い制限速度内で進行し、かつ原告車の制動機に欠陥がなかつたとすれば、落石発見後直ちに制動をかければ安全圏内で停車できることは予測できたはずであり、従つて、通常の運転者であれば制動をかけるのみで左へハンドルを切ることはしなかつたであろうと考えられる。このことは前車が落石地点よりかなり手前で停車している事実からもいえることである。それにもかかわらず原告がハンドルを左に切り、そのために前車に追突したことは、前記のように高度の注意義務が求められているにもかかわらず、前方の状況に十分な注意を払わず漫然と追い越そうとしたか、又は安全速度以上の速度を出していたためにあわてたこと、および運転技術未熟のため本件のような状況にあつて正しい運転の判断ができなかつたためであるといわなければならない。

(ニ)  又、前方に落石があれば前車も急停車するであろうこと、従つてハンドルを左に切れば前車に追突するであろうことは当然予測できたはずであり、予測できなかつたとすれば、そのこと自体に原告の過失があつたといわざるを得ない。

前車に追突し、これに損害を与えることを予測しながら強いてハンドルを左に切つたものであれば落石の危難が急迫であるときにこれを避けるためやむを得なかつた場合にはじめて落石と原告の追突事故との間の相当因果関係が問題になるが、本件の場合においては前記のように安全圏内で停止できることは予測できたはずであり、又ハンドルを左に切つたとしても前車がいるためより左に避けることができないことも当然予測できたものであるから、落石による急迫な危難を避けるためやむを得ない処置であつたということはできない。

(ホ)  以上のように原告の運転上の過失がなければ本件事故は発生しなかつたものであるから落石と本件事故との間に相当因果関係はない。従つて仮に落石が道路管理の瑕疵によるものであつたとしても本件事故による損害について被告に責任はない。

(3)  同第三項の事実はすべて知らない。

三、抗弁

過失相殺の主張

仮に本件事故が落石によるものであるとしても、原告にも次のごとき過失があるから損害額の算定にあたり斟酌すべきである。即ち

(a)  本件事故現場には「落石注意」の警戒標識が設置されており、運転手に注意すべく促されているのであるから、一般的に追走、追越の際に要求されるよりも高度な注意義務が課せられているにもかかわらず、原告は前方に十分注意せず、漫然と追越そうとしたか、或いは安全速度以上の速度で走行していたため、落石にあわてたことおよび運転技術未熟のために、正常な判断と運転ができなかつたものである。

又前方に落石があれば、先行車も当然急制動をかけることは十二分に予想できるにもかかわらず、漫然ハンドルを左に切つたため、先行車に追突したものである。

四、右に対する認否

否認する。

第三、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生について

(一)  原告主張の日時、場所において本件事故が発生したこと、その時、本件道路上で落石があつたことは当事者間に争いがない。

(二)  〔証拠略〕によれば、本件事故は、原告が本件道路を時速約六〇キロメートルで原告車を運転して都窪郡滑音村方面から高梁市方面に向けて走行中、時速約五〇キロメートルで原告車と同方向に向けて走行していた訴外加納運転の訴外車を、そのままの状態で追越そうとして本件事故現場の手前約二〇メートルの地点で訴外車の右後方道路中央部分にでた瞬間、本件道路右側の山林の前方の崖部分より突然頭大の岩石二〇―三〇個が落下するのを発見し、突嗟に急制動をかけると同時にハンドルを左に転把したところ、丁度訴外車を運転していた加納も前記落石に気付き、本件事故現場で急停車したのであるが、原告車は停車し切れず、停車直後の訴外車の後部に衝突して発生したことが認められる。前掲各証拠中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

二、被告の責任

(一)  〔証拠略〕によれば本件道路は二級国道一八〇号線の一部であり、昭和四三年六月よりこれを建設大臣が管理し、同大臣はその維持修理その他の管理を中国地方建設局工事事務所玉島維持出張所の所管とし、同所長以下の職員をしてその管理に当らせていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  〔証拠略〕によれば、本件道路は幅員八・五メートルでアスフアルト舗装された平坦な道路であり、岡山市方面から高梁市に向つて左側は高梁川に沿つており、右側は山腹の切り立つた崖と接していることが認められ、本件事故現場付近は昭和三六年から四一年にかけて山地崖部分を削りとつて拡張した部分であることは当事者間に争いがないところである。

(三)  本件国道は岡山市、総社市、高梁市、新見市を結ぶ基幹道路であつて、かつ交通量の多い道路であることは公知の事実である。

(四)  〔証拠略〕によれば、本件事故以前に大規模な落石はなかつたが、以前から小石がパラパラと落ちてくることは度々あつたこと、本件事故後である昭和四四年一〇月に現場付近の山腹崖部分に金網が設置されたこと、当時はその所轄署たる中国地方建設局工事事務所玉島出張所が全線のパトロールをなし、現場付近には保安灯とセーフテイコーンが設置してあり、「落石注意」の標識および「徐行」標識があつたことが認められる。

(五)  ところで道路法四三条には、道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、一般交通に支障をきたさぬように務めなければならないことが明記されており、本件道路の管理者たる被告がその運行の安全を図るため、万全の措置をはからなければならないことは当然である。

(六)  以上の認定の事実によれば、被告は本件道路の安全の確保のために、以前から小石がパラつくことがあつたにもかかわらず、防護覆、ネツトを張りつけたりはせずに、単に保安灯、セーフテイコーン、又現場に「落石注意」の標識と手前に「徐行」の標識をそれぞれ設置し、パトロールしたのみであり、そのパトロールは〔証拠略〕によれば、単に車中から観察するに過ぎず、山腹そのものを精密に調査した形跡はない。

ところで道路の管理の瑕疵とは、道路の管理の不完全により、道路として通常備うべき安全性を欠いていたことを指すものであり、しかも管理者の過失は問わないものである。

以上の事実を総合判断すれば、被告に本件道路の管理につき、瑕疵があつたといわざるをえない。

三、本件落石と本件事故の因果関係について

1  本件事故は、既に認定したような状況で発生したものであるが、〔証拠略〕を総合すると、本件道路は直線道路で、進行左側は高梁川、右側は山腹で交差点も全くなく、きわめて見通しの良い地点であることが認められる。

前記二、(六)で認定したとおり本件事故現場付近には「徐行」の標識および「落石注意」の標識があつたものであるが、原告は、これらの標識には全然気がつかず、漫然と時速六〇キロメートルの速度で訴外車の追越にかかつたこと、しかし、ここで徐行をして進行していれば、訴外車に追突するようなことはなかつたであろうことが認められる。

そうすると、原告が右の警告標識に全然気がつかず漫然と六〇キロの速度で進行した点において原告に過失があつたというべきである。

しかしながら右過失があつたにしても、単に「落石注意」とか「徐行」という標識を設置したのみでは舗装された立派な道路の状況からして運転者が徐行して進行することを確実に期待できるものではないのであり、またその後の原告の運転については、原告車のわずか二〇メートル先の地点に突如頭大の石が二〇ないし三〇個も落ちてきたのであるから、原告としては落石をさけるため突嗟に急停車し、同時にハンドルを左に切つてもやむを得なかつたものというべきである。従つて右過失の存在も本件事故と道路の瑕疵との間の相当因果関係を否定するものではない。

よつて、被告は本件事故により原告および訴外神戸衡機株式会社、同石原、同加納の蒙つた次項の損害につき国家賠償法二条に基き賠償する義務がある。

四、本件事故により原告らの蒙つた損害

(一)  原告自身が蒙つた分

(1)  〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による原告車の破損を修理するために一五万九六五円を要する破損を受けたことが認められる。

(2)  原告は本件事故により原告車が受けた破損を修理したとしても、なお同車の価値が五万円減耗する旨主張するが、それを認定するに足る証拠はない。

(3)  〔証拠略〕によれば、本件事故により、原告は全治二日間の所謂たんこぶができた程度の傷害を蒙つたこと、しかし特段の治療を施したこともなく、そのまま放置するうちに治癒したことが認められる。しかしながら〔証拠略〕によれば、原告は総社警察署において本件事故は専ら原告の不注意に起因するものとして、業務上過失傷害被疑事件の被疑者として取調べを受けたのみならず、被告は損害の賠償に全く誠意を示さず放置したため、やむなく訴外人等に対して同訴外人らが本件事故によつて蒙つた損害を支払わざるをえなくなり、その交渉や金策のために奔走し、そのため精神的苦痛を蒙つたことが認められる。その他本件にあらわれたる諸般の事情を勘案して原告に対する慰藉料は五万円をもつて相当と認める。

五、過失相殺

(一)原告の損害は二〇万九六五円であるが、原告には前記の過失があり、それは本件事故の一因になつているというべきであるからこれを斟酌し、そのうち被告に賠償せしめるべき金額は一四万円をもつて相当と認める。

六、訴外神戸衡機株式会社に支払つた分

〔証拠略〕によれば、訴外神戸衡機株式会社はその所有にかかる訴外車の修理のために一一万八〇〇〇円を要する損害を受け、このうち一〇万円を原告が支払つたことが認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

七、訴外加納浩久、同石原直雄に支払つた分

(1)  〔証拠略〕によれば訴外加納浩久は訴外車の運転をなし、訴外石原直雄が助手席に同乗していたが、本件事故によりむち打ち症の傷害を蒙り、両名とも事故当日の昭和四三年一一月一五日から昭和四四年二月二八日まで岡山市内の梶谷病院に入院し、その後訴外石原は同年四月三日まで同病院に、同加納は神戸の新須磨病院に(期間不明)それぞれ通院して治療を受けたこと、その後右石原は同年五月中旬に、同加納は同年四月末に勤務先の前記神戸衡機株式会社をそれぞれ退社しており(理由は不明)、その間も出勤していなかつたことが認められる。

ところで〔証拠略〕によれば、原告は訴外石原に対し本件事故による休業補償として昭和四三年一一月分(給料の五〇パーセント)三万七五〇円、同年一二月分六万円、昭和四四年三月分六万円、同年四月分、五月分(給料の四〇パーセント)四万八〇〇〇円を、訴外加納に対する休業補償として昭和四三年一一月分(給料の五〇パーセント)と同年一二月分として合計七万四二五〇円、昭和四四年三月から五月までの分(給料の四〇パーセント)として合計五万六〇〇〇円を支払つたことがそれぞれ認められる。

ところで〔証拠略〕によれば、訴外石原の事故前の平均月収は約六万円、同加納の月収は約五万円であつたことが認められる。

しかして昭和四三年一一月一五日から昭和四四年二月二八日までは両名とも入院していたから稼働できないことは明らかであり、従つて石原については昭和四三年一一月分三万円、同年一二月分六万円が休業により得られなかつた収入、加納については昭和四三年一一月分二万五〇〇〇円、同年一二月分五万円が同様得べかりし利益の喪失となる。

しかして同人らが退院後それぞれ通院をしていた事実は前記のように認められるが、その通院日数、病状等につき何ら立証がないのでその間の逸失利益については算定すべき根拠がないことに帰し、又、更に通院打切後の逸失利益についてはこれを認めるべき証拠はない。

よつて前認定のように原告は右両名に昭和四四年三月ないし五月分の休業補償をそれぞれなしているけれども、その合理的根拠に乏しいのでこれを原告の損害と認めることは出来ず結局石原についての九万円、加納についての七万五〇〇〇円が休業補償として原告が支払つたこととなる。

(2)  〔証拠略〕によれば、両訴外人は入院中その治療のため、ポリネツク各一個宛(一個三五〇〇円)購入し、その代金七〇〇〇円を原告が支払つたことが認められる。

八、ところで右訴外会社および訴外人らの損害については被告との共同不法行為によるものであるから、原告が支払つた金額についてはその負担部分に応じてこれを求償しうるものといわねばならない。

よつて原告と被告との責任の度合からいうと原告が被告に請求しうる金額は一九万円である。

九、弁護士費用

以上により原告は三三万円を被告に請求しうるものであるところ、原告本人尋問の結果によれば被告はその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起および追行を委任し、手数料および報酬を支払うことを約したことが認められるが、本件訴訟の経緯その他諸般の事情を考慮し、被告に賠償せしめる金額は三万円を以つて相当と認める。

一〇、結論

よつて原告の本訴請求は金三六万円およびこれに対する昭和四四年八月一五日より右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用し、なお仮執行免脱の宣言は相当でないから付さないこととして主文のとおり判決する。

(裁判官 浅田登美子)

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